二高校地の生物的自然 −虫たちの四十年− | |
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高2回 小野 泰正 |
都市化現象の著しい仙台周辺地域では、現在、丘陵地の自然が急速に失われている。
この趨勢の中でみるとき、旧市街地をやや囲む形で残された青葉山、霊屋、大年寺山 や、日本の名水百選の一つに選定された広瀬川は、誠に貴重な”緑である。 二高の校地は、この青葉山と広瀬川の間に存在する。そして校内には今なお緑の樹 々があり、西道路建設で影響を受けた蔵王池も復元した。親の代からこの川内に住み、 校地の隣で生れ育ち居住する生態学専攻の私には、この校地は生物の原体験の場でも あった。 東北大学名誉教授の加藤多喜雄、陸奥雄両先生は、子どもの頃から仙台市内にはア ゲハチョウ類が多かったと述懐されるが、これはかって市内にはカラタチの生垣が多 かったことによる。二高の敷地も、金網フェンスに変わる前はこの生垣で囲まれ、白 秋の詩の風景があり、アゲハ類が発生した。 現在、市街地ではアゲハ類は激減した。私は二十一世紀の仙台市を考える或る懇談 会で、アゲハの飛ぶアメニティタウンなどの構想を話題にしたが、菅野邦夫野草園長 はカラタチの刺は災害時の避難の障害ではと言い、個人住宅の敷地の小規模化なども 考えれば、アゲハの復活はサンショウの樹のみではもはや困難であろう。 さて昭和二十六年の事であるが、当時の一東北大生が初めてスジグロチャバネセセ リという蝶の食草を解明した。これは亀井文蔵氏と共編著の「宮城県の蝶」に収録し たが、実はその場所は二高の生垣と土手であった。 二高の前庭には、ヤナギ類が多く、美しいコムラサキやゴマダラチョウ、クワガタ ムシ類などがその樹液に集った。このヤナギは、天皇の御学友として知られる植物分 類学の木村有香東北大学名誉教授の植栽によるものである。現在は数本が支柱に支え られてあるが、残念ながら樹液に集まる昆虫類はみられない。しかし本年七月、ゼフィ ルス(西風)と総称される、小形の美しい蝶の一種のミドリシジミが発生しているの には一驚した。食樹のハンノキ類は、少数が残っている。 また、復元した蔵王池には、またまた驚いた事に、腹部の付け根が黄色のコシアキ トンボ、腹部が目盛に似たモノサシトンボ、小さなクロイトトンボが棲息し、コシア キトンボは縄張りをパトロールしたり、鎮魂の像のあたりを飛翔するのが観察された。 もっとも、かっては大手門下の五色沼などは、優れたトンボ類の棲息地ではあった。 自然には復元力があり、人為でも環境の創出に配慮すれば、例えばこのように飛翔 能力のある昆虫類は棲みついて、繁殖するという生命の力をみせてくれるのである。 |
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