私は現在、国境なき医師団などの幾つかの国際医療ボランティア組織で活動
しております。
今年の秋からはアフガニスタンへ半年ほど派遣される予定ですが、今年の春まで
はアフリカの小さな国に派遣されていました。
マスコミなどの報道のおかげで、アフガニスタンの悲惨さがかなり有名になって
おりますが、世界に目を向けますと、アフガニスタンよりもはるかに悲惨な国々が
たくさんあります。
その中でも私が前回派遣されていた国は、平均寿命がわずかに35年の国でした。
この国の名前を「シェラレオネ共和国」といいます。
こうした状況を受けて、私はシェラレオネ共和国へ国境なき医師団から派遣され
ました。
この国で私が行ったことには二つのことがあります。
一つは国境なき医師団から依頼された現地での救急医療。
もう一つは私個人の理想に基づく活動でした。
国境なき医師団は世界でも屈指の高い理想を持つ素晴らしい団体で、政治理念の
違い、宗教の違い、男女の性別の違い、民族の違いなどに全く関係なく全ての人々
に平等に援助を与える国際ボランティア団体です。
しかしながら基本的に緊急時の医療援助を主体としているため、戦争の最中などの
医療援助をし、それが落ち着いたら割とすぐプロジェクトを止めるという方向性が
あります。
これに対して私は、個人的に二つの別の考えをもっています。
一つは、半年や一年派遣されて一生懸命医療活動をして「ああ、俺はよくやった
な」と思って帰ってくるようなボランティア活動はだめだということです。
自分が帰った後も、私がいた時と同じような医療レベルを維持できるように、
現地の医療スタッフを徹底的に教育し、それと同時に国連や日本の外務省、現地の
厚生省に訴えて、安定した医療物資の供給ができるようなシステムを作る。
また、義務教育の無い国なので、トイレに行ったら手を洗う、などの基本的な
衛生概念を教える。
こうした、総合的な・包括的な未来永劫・持続可能なシステムを作ることが、
なによりも重要だと考えています。
私の理想のもう一つは、現地の文化や歴史を理解し尊重することです。
アフリカにはエジプト文明、アフガニスタンにはメソポタミア文明から数千年も
続く雄大な歴史があります。
こうした長い時間に培われた素晴らしい文化・風習を尊敬することなくして、
国際協力を考えてはならないと思っています。
つまり、彼らは貧しいのだから、お金と食料を送っておけばいい、と我々は考え
がちですが、それは全く間違いです。
彼らは貧しいのでも遅れているのでもなく、欧米諸国や我々と違う方向の文化を
築き上げてきただけなのです。
ですから、彼らと同じ視線に立って、どうすればその国のよりよい未来を作って
いけるのかをいっしょになって考え、その問題が解決されるまで、ずっと続ける
ことが重要だと私は思っています。
さて、このため私は現地の言葉を必ず勉強するようにしており、その土地の文化・
風習・政治形体を理解するようにしています。
そうして覚えた言葉で、現地の医療スタッフの教育を行ったり、村の村長さんや
部族の長たちに、一般の人たちへの衛生教育をする場を与えてくれるように頼み
に行くのです。
もちろん、基本的に毎日12時間以上は、国境なき医師団から頼まれた日常の
診療をしており、土日もありませんし、夜間も入院患者が重症になると呼び出され
ますが、自分の信念のもと、残る時間と体力をふりしぼって現地の病院スタッフ
の教育をし、一般の人々の衛生教育をするように勤めました。
また、こうして日本に帰ってきても、それで国際ボランティア活動が終わりでは
なく、その国への安定した援助が可能となるように、マスコミや国際社会への
広報活動をずっと続けております。
後に残る、未来に残るシステムを維持していくためには、そうしたことは絶対に
必要だと考えているからです。
なお、私が今年の春まで、アフリカで行ってきた国境なき医師団での活動は、
白水社という出版社から「世界で一番いのちの短い国 シェラレオネの国境なき
医師団」という題名で2002年11月に出版されることになりました。
原稿料も印税も全てゼロにして極力安くしましたのでご興味のあるかたに読んで
頂けると嬉しいです。(仙台では丸善という本屋さんにあります。)
最後になりましたが、これらの国際協力に必要なのは、お金や食料をただ送るだけ
でなく、彼らの文化や歴史を正しく理解し、彼らと同じ視線になって、いっしょに
未来を考えることだと私は思っています。
我々がすべきことは、少しの科学的助言と世界の多様性を示すことであり、
その中から選択するのは、彼ら自身にまかせるべきだと信じております。
|
---|